2019.11.16

The R.O.X Decade 世界最大の投げ銭ライブ~これが儚き夢ならば俺たちがロックンロール・ヒーローだ~ ライブレポート

The R.O.X & Gently Weeps Orchestraが渋谷WWWでライブをする。

そう聞いたとき、耳を疑った者もいたのではないだろうか。2009年に結成した The R.O.X がホーン隊やラップメンバーを続々と迎え入れ、The R.O.X & Gently Weeps Orchestra に改名したのが2018年。それから幾度もライブを重ねてきたが、約400人規模のライブハウスで演奏するのはあまりにも大きな挑戦だった。現実問題、メンバーの大半は会社員だ。どうしてもこれまでとは異なったアプローチが必要になってくる。


最初に打ち出した策が投げ銭だった。リスクを負わなければこのライブは成功できない。それでもこのご時世、ライブハウスまで足を運んでくれる人が何人いるだろうか。彼らは次々と策を尽くした。アコーディオンの Puji The R.O.X をバンドマスターに任命し、演奏のクオリティを上げ、メンバーが揃わない中でも本番を意識した練習を行った。また、交流の深い代官山王国、リョコモンスター、DJ変珍をゲストに迎え、アフターパーティーの時間もとった。投げ銭ならば本来は必要のないチケットも、粋を凝らしたデザインで制作し、大勢に配る。「俺はより良い音楽を作りたいんじゃない。みんなで音楽をやりたいんだ」。The R.O.X の思いはシンプルだが、簡単ではない。それを実現するためには充分な集客と、客を満足させられるだけの演奏をしなければならないのだ。

2019年11月10日(日)、本番当日は快晴だった。


当日のリハーサルで初めてメンバー全員が揃うという通常では考えられないライブだが、The R.O.X は「みんないる」と笑みを零す。15時半の開場から、ひっきりなしに人がやってきた。先着100名に配られた赤いメガホン(ヌガホン)はあっという間に無くなり、懸念事項のひとつだった集客問題は杞憂となった。オープニングアクトとして招待された Offo は「これだけ大きなライブハウスでやるのは初めて」と言いながらも、どこか懐かしさを感じさせるサウンドとグルーヴ感で会場を盛り上げていった。


Offo の演奏が終わり、照明が落ちると会場にロッキーのテーマが流れ始めた。ステージの幕が開けると、そこには 20th Century FOX のロゴ。よく見ると ”FOX” が “The R.O.X
” に書き換えられている。響き渡るおなじみのオープニングサウンド。The R.O.X の趣味が弾け飛んだ瞬間だった。あっけにとられている観客を叩き起こすかのように、一発目の曲が始まる。”Wow Wow Wow Wow Yeah!” だ。15人編成というビッグバンドのサウンドが WWW を容赦なく揺らす。VJ の Ori The R.O.X が特別に作った10周年のロゴをバックに、The R.O.X は序盤から飛び、跳ね、叫んだ。

”The R.O.X & Roll” でメロウなサウンドを披露した後、”I Hate The Music(but I like it)”、”ナチュラル・ボーン・こ汚ねぇ”、”グレート東京” では、研ぎ澄まされたパンク・ロックとしての側面を見せつけた。ギターの KenKen The R.O.X、ベースの Something The R.O.X、ドラムの齋藤さんThe R.O.X はオルタナティブロックバンド the milkhole でも演奏を共にしており、もはや向かうところ敵なしと言わんばかりの緊密感だ。

”アイアムヤング” が始まる前、The R.O.X は客席に向かって曲をアカペラで歌い始めた。観客にも歌ってほしい。これが The R.O.X のライブである。自分たちで演奏するだけでは飽き足らない。大人になんてなりたくないぜ〜、と大勢の大人たちが歌い始めた。

長年の定番曲 “GAIB2U” を経て “BEER METAL BEER” に曲が変わると、バンドはこれまでとは異なる一面を見せ始める。ギターの Stkn The R.O.X が繰り出す超速弾きと Ori The R.O.X の VJ が相乗効果を生み出し、会場が一気にメタルに染まった。さらに突然、ビールを持った美女が現れてステージ上で堂々と飲み始めた。そう、この曲で繰り返される歌詞”ビール飲みてえ!”をまさに体現しているのである。彼らのパフォーマンスは観客の想像を超え始めていた。

異様な光景の演奏が終わると、ステージには The R.O.X が一人残された。いわくつきの弾き語り、”俺とバンド組もうぜ” が始まる。実は The R.O.X は本番までこの曲をバンドメンバーに一切聴かせなかった。リハーサルですら1フレーズも演奏していない。このひた隠しぶりにはメンバー達も呆れるばかりで、しかもこれ以上メンバーを増やすつもりかと言われてもおかしくないような曲名だ。それでも、この曲で観客は The R.O.X という男の魅力にあらためて気づかされたのではないだろうか。

”俺と君でバンド組もう 世界は変わる ローリング・ストーンズやビートルズ そんなもん楽勝だ” 

”俺は一人じゃなんもできねぇ 孤独は辛い”

チューニングのずれたギターで声を張り上げる。会場からは自然と手拍子が起こり、投げ銭タイムも始まらないうちから一万円札がステージに渡された。

トロンボーンの Beer Monster The R.O.X とキーボードの Matthew The R.O.X がステージに上がり、哀愁漂うロックナンバー ”此の世は終わってるけどあんまり意味がねぇ” を奏でると、The R.O.X はボーカルをなっちゃん The R.O.X にバトンタッチする。”僕らが描いたノーヒューチャー” が始まった。これまで The R.O.X が歌っていたこの曲は、なっちゃんの柔らかく伸びやかな声によって名バラードとして生まれ変わった。

“7days Weekend”、”また君とわらって会えればいいね” では The R.O.X と楽器隊がステージに戻り、会場は再び賑やかな雰囲気に包まれる。Holiday The R.O.X がかき鳴らすアコースティック・ギターで曲がカントリー調に変化したかと思えば、Echo The R.O.X の軽やかなフルートや、Jo The R.O.X の艷やかなサックスが響く。彼らが見せる音楽の彩りはどこまでも広がっていく。

ライブが終盤に差しかかる頃、Tamrin The R.O.X が登場する。彼のラップを待っていたファンは少なくない。「彼がバンドに戻ると聞いたときから、このライヴは成功すると思っていた」と The R.O.X が口にするほど、バンドにおける精神的支柱としての役割は大きい。お馴染みの ”Hey Mr.DJ(Everybody Guitarman)” が流れ始めると、観客はためらうことなく ”Hey Mr.DJ” と歌い出す。バンドと観客の一体感は揺るぎないものになりつつあった。サックスの Jo The R.O.X、トランペットの Doima The R.O.X、トロンボーンの Beer Monster The R.O.X のソロが軽快に続き、曲は十八番の”やりたいことやりてー”と変わる。過去には観客に手を振ってもらうよう演出を工夫したこともあった。それが今では手を振るばかりか、歌う観客が増えた。バンドと観客双方がこの曲を成長させたといっても過言ではないだろう。

多様な音楽を見せつけてきた彼らは、ここでさらに新曲を披露する。”世が明けるまで” はバンドマスター Puji The R.O.X が作曲した、ジャズの境地を切り開く一曲である。ここではホーン隊の実力が遺憾なく発揮され、バンドの底力を感じさせる演奏となった。

 

観客からの惜しみない投げ銭を経て、切ないピアノのイントロと共に迎えたのは ”L.I.F.E.” だ。「この曲があるから俺は10年間バンドをやってこれた」と The R.O.X は言う。ステージから飛び降り、観客と歌いながらひたすら歩き回る。定番のラストだ。みんなと歌いたいという彼の思いはいつだって変わらない。彼らは盛大な拍手を浴びながらステージを後にした。

観客の興奮は冷めず、バンドは “これが儚き夢ならばロックンロールに魂を捧ぐ” でアンコールに応えた。シャウトする The R.O.X に加えて、いつもは余裕の表情を見せる KenKen The R.O.X も暴れ始め、ギターと共に踊りながらステージ床に倒れ込む。続く “東京饗宴パーフェクトナイト” は曲が始まる前から観客の手拍子が鳴り響いた。The R.O.X、Tamrin The R.O.X、Kyameron The R.O.X、Natchan The R.O.X の4人が繰り広げる壮絶なラップバトルと、フルの編成で織りなすサウンドが会場を満たし、2時間を超えるライブは大歓声の中幕を閉じた。少年の頃からロックンロール・ヒーローを夢見ていた The R.O.X は、この日、確かにロックンロール・ヒーローとなった。

投げ銭の総額は416,275円と商品券500円、ピカチュウのぬいぐるみとセブンスター1箱。最終観客数は365名だった。投げ銭でこれほどの成果を上げたバンドが今まで他にあっただろうか。数々の不安要素を吹き飛ばし、栄光を掴み取る。そんな彼らに称賛を送りたい。手応えを感じた The R.O.X は、早速新たな楽曲制作に意欲を燃やしている。2029年に武道館で解散ライブをするという目標まであと10年。走り続ける彼らをこれからも見守りたい。

●文:浅井真理子
もの書き。ウェブマガジン「アパートメント」管理人。

 

●撮影:永井一行