2018.01.14

【短歌しない?】『荒井の妄想一首評』:っていうかむしろチョコレート革命起こしません?

あらかじめお伝えしますが、今回は一首評しません。

ですが、まずはこの短歌を読んでください。

 

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

 

短歌なんか全然知らねえよ!という方もこの歌なら知っているんじゃないですかね。

そうそうそう、そうです、これはあの俵万智さんの短歌です。(俵万智「サラダ記念日」『サラダ記念日』より)

毎年7月6日になると業界の著名人や作家やバンドマン、アイドル、胡散臭いビジネスパーソンといった方までもが、TwitterやFacebookで「#サラダ記念日」で投稿したりするんですよ。「サラダ記念日なんでサラダ食べた」とか写真付きでね。嬉しみの深さマリアナ海溝がごとくって感じですよね。

 

そんな俵万智さんの短歌で、他に知っているものはあるでしょうか?

これが意外と、知らないんじゃないかなと思うんですね。

まあそうは言っても、普段生活していて短歌が登場する場面なんてほとんどないので、これは当たり前のことだと思います。

 

で、俵万智さんの短歌ってどういうイメージ持ってますかねえ。

たぶん「この味が〜」の短歌から想像して、恋人との何気ない幸せを描写する、みたいな感じですかねえ。

もちろんそういう歌で素晴らしいものはたくさんあります。

あるんですが、あるんですが今回は俵万智さんの他の歌を知ってもらうとともに、そのイメージを壊してもらおうと思ってまして。

 

というわけで、やっと本題に入れそうです。

はい今回は!荒井が特に好きな俵万智さんの一面を紹介!ということでね!

どんな一面かというとね、もうこの分野でこの人の右に出る者はいないんじゃないかって勝手に思ってるんですけどね。

荒井的にそれが、「”女”としての汚い部分を、短歌という形式で鮮やかに表現してみせる」ってところだと思うんですよ。

なんというか、ねっとりした感じの短歌だと、この人が群を抜いていると思っています。

 

だいぶカッコつけましたねえ。

まあいいや!とにかく、荒井が好きな俵万智さんの歌集『チョコレート革命』からいくつか選んでみたんで、まずはちょっと読んでみてください。

しばらく荒井は黙りますね。それぞれのペースで味わってみてください。

(以下の短歌はすべて、俵万智の『チョコレート革命』より引用)

 

 

「勝ち負けの問題じゃない」と諭されぬ問題じゃないなら勝たせてほしい

 

唇を合わせるだけのキスをして別れ話は台本どおり

 

「最近は、どう」と言われて「うん、まあ」と答える貝の身をはずしつつ

 

携帯電話にしかかけられぬ恋をしてせめてルールは決めないでおく

 

一枚の膜を隔てて愛しあう君の理性をときに寂しむ

 

男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす

 

妻という安易ねたまし春の日のたとえば墓参に連れ添うことの

 

知られてはならぬ恋愛なれどまた少し知られてみたい恋愛

 

巣づくりの本能見せてヒト科オンナの妻というものあなどりがたし

 

家族にはアルバムがあるということのだからなんなのと言えない重み

 

焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き

 

 

…ね??

愛憎、妬み、僻み。これらの歌を作った時の感情は、僕らが想像している以上に尖っているはずですが、それを短歌でもって見事に美しく表現していると思うんです。

ついでですが、渡部泰明著『和歌とは何か』という本の中で著者は「和歌は言葉による演技である」と表現しています。

これにはものすごく納得がいって、荒井自身ももっと詳しく調べていずれ書きたいテーマなんですが、上記の短歌はまさに見事な「演技」にように感じます。

実際、俵万智さんは高校時代、演劇部に所属していたらしいですし。

 

それと読んでみて気になった人もいるかと思いますが、何やら「いかがわしい恋愛」を思わせるような内容の短歌がありますよね。というかまあ、意図的に選んだわけなんですが。

これに対して俵万智さんは『チョコレート革命』の「あとがき」でこんな風に書いています。この文章も、さすが、という感じです。

 

 

恋の歌については、「ほんとうにあったことなんですか?」ということを、しばしば聞かれる。歌が生まれるきっかけやヒントになる人は、決して架空の人物ではない。が、この歌集を読んで、思いっきり思い当たる人もいれば、まったく身に覚えのない人も、いるだろう。そのまんまやないかと思う人もいれば、なんでこうなるの?と思う人もいるはずだ。

つまりそういうことで、確かに「ほんとう」と言えるのは、私の心が感じたという部分に限られる。その「ほんとう」を伝えるための「うそ」は、とことんつく。短歌は事実(できごと)を記す日記ではなく真実(こころ)を届ける手紙で、ありたい。

 

 

これも「演技」という視点があるように感じますね。

脱線して戻ってこれなさそうなので「演技」というキーワードについては一旦置いておきますが、とにかく!

荒井の好きな俵万智短歌は、こういう短歌なんです!勝手に「ねっとり短歌」と呼んでます。

 

というわけで、いつもは一首の短歌についてだけ書いてますが、少し広げて歌集を紹介した感じになりました。

あと、どうでしょう。妄想も楽しくなってきたんじゃないですかね!

ぜひ気になった歌人の歌集を手にとってみてください。

 

●文/歌人・荒井貴彦

大学一年生の時に短歌を詠み始めました。主な源泉は寂しさです。 最近はもはや、短歌にすがりついている感すらありますねえ。 「荒井の随筆」というブログで自作短歌を公開中です。